ポジトロニウムの超微細構造の精密測定

オルソとパラの二つの準位。その間のエネルギー差が超微細構造と呼ばれる。

ポジトロニウムは、電子と陽電子のスピンの方向に応じて、オルソポジトロニウム (o-Ps) とパラポジトロニウム (p-Ps) の二種類があります。両者のスピン同士の相互作用によって、o-Ps と p-Ps のエネルギーレベルは 0.84meV ほどズレていて、このズレは超微細構造 (HFS) と呼ばれています。
ポジトロニウムの HFS は、昔からいろいろなグループによって測定され、今では、ppm の精度で結果が得られています。一方、QED による理論計算も進展し、こちらも ppm の精度で、O(α3) まで求められています。

実験値と計算値との間のズレ。

ところが、困った事に、測定値と理論値の間には、大きな食い違いが存在していました。かつて、HFSの値は二つの独立なグループによって測定されましたが、両方のグループの測定値が、一様に理論値からズレていました。ポジトロニウムのような単純な系で、測定値と理論値が 3.9σ もズレているのは、非常に大きな問題です。もしかすると、未発見の新粒子が作用しているのかもしれません。ひょっとすると、昔の二つの測定の両方に見落としがあるのかもしれません。あるいは、理論の計算が間違っているのかもしれません。

われわれは、以下の 3 つのアプローチで HFS を精密に測定し、このズレが実験の際の系統誤差によることをつきとめました。

  1. ポジトロニウムの量子振動を用いた測定
  2. 静磁場中でのゼーマン効果を用いた間接測定
  3. サブテラヘルツ波を用いた直接遷移測定