ポジトロニウムの量子振動を用いた測定

静磁場中でのポジトロニウムのエネルギー準位。

ポジトロニウムに磁場をかけると、o-Ps と p-Ps が混合し、ゼーマンシフトを起こします。ゼーマンシフト (Δmix) の値は、HFS のエネルギー差 (ΔHFS) と磁場の強さに依存しているため、磁場中でのゼーマンシフトを正確に求めると、HFS を精密に測定する事ができます。

ゼーマンシフトした準位 (|+>) の面白い一つの特徴は、崩壊時のガンマ線の方向分布に偏りがある事です。この偏りは、ちょうど (Δmix) の周期で振動するため、振動周期を正確に求めることで、ゼーマン準位差を求め、最終的には HFS を求める事が出来ます。この方法は、遷移のための光源が不要であるため、比較的手軽に 100ppm 程度の精度まで測定する事が出来ます。このため、HFS 測定の第一弾として行いました。

実験装置の配置図(上)と実際の写真(下)。

上図が実験のセットアップと実際の写真です。中心の真空チェンバー中に、68Ge-68Ga の β+ 線源が置いてあります。放出された β+ 線のうち、画面手前側に放出された物だけがプラスチックシンチレータによってタグされ、シリカエアロゲル中に入射してポジトロニウムを生成します。元々の β+ 線は、放出された方向に偏極していますので、生成されたポジトロニウム自体も、画面手前側に偏極しています。ポジトロニウムが崩壊した際に放出されるガンマ線は、周囲の 6 つの LaBr3(Ce) シンチレータによって検出されます。各シンチレータのイベントの、ポジトロニウム生成からの時間分布を見る事によって、ガンマ線の放出方向の時間分布を求め、その周期から HFS を測定しました。下の図が、得られた時間分布です。

磁場中で得られた崩壊ガンマ線の時間分布。

それぞれ、赤い線は正位相のシンチレータのガンマ線イベントの時間分布、青い線は逆位相のシンチレータのガンマ線イベントの時間分布です。印加した磁場の強さに応じて、振動している事がわかります。それぞれの時間分布をフィットする事によって、ΔHFS=203.328±0.044(stat.)±0.028(sys.) GHz の値が得られました。この値は、精度があまり良くないため、過去の測定値とも計算値とも無矛盾ですが、光源の不要な簡単な手法で、O(100ppm) の結果を得る事が出来ました。結果は Physics Letters B 697(2011)121-126 に掲載されています。

発表資料