サブテラヘルツ波を用いた直接遷移測定

ポジトロニウム超微細構造を他の 2 つの方法は、ΔHFS を直接測定するのではなく、磁場を用いて Δmix に焼き直して間接測定する方法でした。今まで行われた測定はすべて間接測定で、直接 o-Ps と p-Ps の間の遷移を起こして測定した実験はありませんでした。これは、ΔHFS が 0.84meV と大きく、サブテラヘルツ波に相当するエネルギー差である事に起因します。HFS 遷移が禁止遷移である上に、長寿命の o-Ps ですら 142ns の寿命しかないため、直接遷移には大強度の光源が必要なのですが、サブテラヘルツ波でそのような光源が存在しなかったのです。

この問題を解決するために、われわれは、ジャイロトロンとファブリペロー共振器を組み合わせて使用します。

この実験用に製作したジャイロトロン。


ジャイロトロン (上写真) は、磁場中に電子を打ち込み、磁場中でシンクロトロン放射を起こさせる事によって、大強度のテラヘルツ/サブテラヘルツ波を取り出す装置です。われわれは HFS 遷移用に周波数を調整したジャイロトロンを製作しました。

実験装置の概念図。

ジャイロトロンからの出力は、一次元ファブリペロー共振器中に蓄積しエネルギー密度を200倍程度にします。この組み合わせにより、共振器中に約20kW程度のサブテラヘルツ波を蓄積できます。この共振器中でPsを作って、周囲に置いた検出器で崩壊ガンマ線の分光をおこなう事で、世界で初めての直接遷移測定に成功しました。また、ジャイロトロンの発振周波数を変更することで、ブライト・ウィグナー共鳴曲線を得ることにも成功しました (下図)。

ミリ波を照射して得られた超微細構造遷移の共鳴曲線。

この曲線から得られた超微細構造の値は、203.39+0.15/-0.14(stat.)±0.11(syst.)GHz であり、理論計算値と無矛盾な値です。また、得られた共鳴の幅はパラポジトロニウムの崩壊幅を示します。幅から得られたパラポジトロニウムの寿命も世界初の直接測定であり、89+18/-15(stat.)±0.11(syst.)psという理論計算値と無矛盾な値でした。

発表資料